上場企業と持株会社

今回は上場企業で増加傾向にある持株会社について説明します。

1. 持株会社の定義

字面通り言えば、株を持つことを目的とした会社のことを言います。

持株会社は戦前の財閥の形態がそれであり、戦後の財閥解体から1997年の独占禁止法改正までの間は、持株会社の設立が法律で禁止されていた経緯があります。

独占禁止法では持株会社を以下の通り定めています。
「子会社の株式の取得価額(最終の貸借対照表において別に付した価額があるときは、その価額)の合計額の、当該会社の総資産の額に対する割合が百分の五十を超える会社」(法第9条4項1号)

要約すると、会社財産の過半数を子会社株式の評価額が占めているような会社は、株式を管理することを目的としていると評価できることから、このような会社を持株会社と定義しています。

ちなみに、細かい話ではありますが、持株会社を判定するときの「子会社」は、会社法や金融商品取引法でいう「子会社」よりも狭く定義されており、
「会社がその総株主の議決権の過半数を有する他の国内の会社をいう。」(法第9条5項)となっています。

つまり、海外の会社の株式のみを保有している国内の会社は独占禁止法では持株会社に該たりません。
また、投資会社のように、株式をいくら保有していても、各出資先が子会社の定義を充たさないマイノリティ出資の場合も持株会社とは呼ばれません。


2. 持株会社とは何か?

持株会社は子会社(事業ポートフォリオ)の管理をすることを目的とした会社であり、一般的には経営者とそれを支える少数のスタッフにより運営がなされます。

子会社の事業運営は原則として各社に権限が与えられますが、重要な子会社の役員は持株会社の役員や幹部が兼務していることも多く見られます。

持株会社と事業会社を分離することで、各事業会社の経営資源を最適化し、責任と権限を法的にも独立させることで、事業会社には迅速かつ適切な意思決定を行う環境が整い、他方の持株会社は事業会社のPDCAをグループ全体の利益の観点で管理する環境が整います。


3. 何故持株会社が増えているのか?

よく言われる典型的な理由として、責任と権限の明確化と経営意思決定の迅速化が挙げられます。

持株会社化することで、指示をする持株会社と実行する事業会社の関係が明確となり、多くは各事業会社がそれぞれのビジネスユニットとなることから、事業会社個々の評価が容易となります。

社内の事業部と子会社を比べると子会社の方が独立した人事制度の構築が可能であるといった特徴もあります。

また、シビアな話となりますが、事業から撤退すべきシーンに際しても、保有株式を譲渡等することで経営を手放すことができ、現金化が容易であるという点は意思決定者の立場からすると大きなメリットです。


最後に、これを主目的として持株会社化を行うケースは少ないかも知れませんが、企業情報開示制度との関係も確認しておきます。

上場企業には法律や金融商品取引所のルールの元で、様々な開示が求められますが、投資家にとっては有益な情報の全てが企業が開示したい情報ではありません。
開示項目の中には企業グループに対して要求されるものも多いですが、中には上場企業自体にのみ要求されているものもあるため、子会社化することで情報統制の選択肢が広がるメリットがあります。


以上より、上場企業にとって持株会社化は不確実性の高い経営環境の下で、適時適切な意思決定を容易ならしめる手段である、と言えるのではないかと思います。
ただ、持株会社化は外観的には分権化の動きですが、分権化と集権化の優劣には古典的な議論があります。

中身の伴わない持株会社化は親会社の求心力の低下やブランディングの失敗を招き、企業グループとしての競争力を落とす可能性もあると考えます。
そのため、上場企業が持株会社化している意味と効果については個別に検討し、理解することが必要です。