有限責任監査法人についての誤解(実は無限責任も残っている!)

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有限責任監査法人についての誤解(実は無限責任も残っている!)

投稿日:2017-05-17

更新日:2017-05-17

東芝が2016年第3四半期の四半期連結財務諸表について、監査法人からの監査意見を得られない状態で決算発表を行ったことが話題になっています。

東芝の監査法人はPwCあらた有限責任監査法人ですが、
今日は大手監査法人が採用している「有限責任監査法人」という制度において、
監査法人が負う債務に対する社員の責任について説明します。

この制度については、公認会計士の人でさえ誤解している事があるようです。

最初に、監査法人が負う債務に対して、
従来の指定社員制度を採用する無限責任監査法人の社員の責任と、
有限責任監査法人制度における社員の責任とを簡単にまとめましたのでご覧ください。


それでは、以下で詳しく見ていきます。

1. 監査法人の社員は無限責任が原則

監査法人の出資者を社員と呼び、社員の中で監査報告書にサインする公認会計士のことを一般的に代表社員と呼びますが、
株式会社の出資者である株主の性格とは根本的に異なります。

わかりやすい例で株式会社から説明しますと、
株主は投資先の会社が倒産した場合、その会社がどれだけ債務超過に陥っていたとしても、保有している株式の価値がなくなるだけで追加で補填する義務はありません。
これを株主有限責任の原則と言います。

これに対して、監査法人の社員は無限責任が原則であり、
被監査会社に対して法人の財産で払いきれない債務を監査法人が抱えた場合、
各社員が連帯して個人財産から支払う義務があります。
更にこの債務はその社員自身の過失の有無は問題にならず、連帯債務となっています。


2. 無限責任監査法人における指定社員制度

もしあなたが監査法人の社員だとして、
考え方が合わない他の社員のせいで負債を負う可能性を許容出来るでしょうか?

元々監査法人は社員の共同経営のような組織ですので、
本来そのような関係にある人と組むこと自体に疑問はありますが、
大手の監査法人は大規模化し2桁、3桁の社員を抱える監査法人もありますので、
全ての社員間の信頼関係が盤石とは言えないのが現実でしょう。

このような状況などを考慮し、
平成15年に公認会計士法改正によって指定社員制度が創設されました。

この制度の下では、
監査法人は監査証明業務を受託する際に指定社員を指名することができ、
被監査会社に対しては、指定社員のみが無限責任を負い、それ以外の社員は有限責任となります。

ただし、この責任は監査契約の当事者である被監査会社との関係でのみ成立する関係であり、
被監査会社の株主などの第三者や、監査業務以外のサービスに関連する負債に対しては、
指定社員以外の社員も原則通り無限責任を負うものと解されています。

指定社員制度はあくまで被監査会社と監査法人の間の監査契約に対して認められた契約条項であり、
契約の当事者以外からすれば関係ないこと、
と考えるとわかりやすいかも知れません。

3. 有限責任監査法人制度

有限責任監査法人は平成19年の公認会計士法改正によって創設された制度であり、
契約条項としての指定社員制度と異なり、監査法人の組織形態自体を変更するものです。

監査法人が有限責任監査法人となるためには、次の3要件が必要とされています。
  1. 内閣総理大臣(実際にはその委任を受けた金融庁長官)に申請の上で有限責任監査法人名簿に登録すること
  2. 一定の財務基盤を有していること
  3. 監査法人の業務と財産の状況に関する情報を開示すること

4. 有限責任監査法人制度の下での責任

有限責任監査法人はその名称からすると、完全に有限責任になったように思われがちですが、実はそうではありません。

指定社員制度との比較で説明すると、
指定社員以外の社員の第三者に対する責任は無限責任から有限責任となりますが、
責任者である指定有限責任社員の被監査会社及び第三者に対する責任は、指定社員制度と同様に無限責任です。
(この、指定有限責任社員という名称なのに実は無限責任というところが直観的でないため、世の誤解を生んでいるのではないかと思います。

5. 余談

PwCあらた監査法人が有限責任監査法人に移行するタイミングはちょうど東芝の監査を新日本監査法人から引き継ぐタイミングに近かったため、
リスクの高い監査契約を受嘱するために有限責任監査法人になったのではないか、という噂が立った事がありました。

有限責任監査法人制度を正しく理解すると、
この噂は誤りである事がわかると思います。

監査法人の指定社員として監査報告書にサインする公認会計士の責任は非常に重く、
監査契約を引き受けるという事は、組織としての監査法人の意思ももちろんですが、
無限責任を負ってサインする覚悟を持った公認会計士が存在しなければ成立しません。

この点はもう少し注目されても良いように思います。

公認会計士の義務はその責任を正しく果たせすことにあるので、
教科書的には財務諸表に問題があれば限定付き適正意見や不適正意見を出せば良いとも言えるのですが、
実際のところ有限責任監査法人の内部では、無限責任を負う指定有限責任社員と、
有限責任しか負わない審査部を含むその他の社員では負っている責任の程度が決定的に異なるため、
有限責任監査法人となったことで組織運営が難しくなる局面もあるのではないかと考えます。