上場企業とは何か?

今回は本サイト上場企業サーチの名前にも入っている「上場企業」とは何かについて整理します。

1. 上場ってどういう意味?

「上場」という言葉は「場に上がる」と書きますが、ここでの「場」は株式市場のことを指します。

株式市場では上場企業の株式を売買することが出来ます。
但し、個人が証券市場で直接売買することは出来ませんので、通常は口座を開設している証券会社を通じて注文を出すことになります。

2. 上場するにはどうしたら良いの?

株式市場で売買されるのは「株式」ですので、上場企業は株式会社である必要があります。
余談になるので深くは触れませんが、会社には株式会社以外にも合同会社、合名会社、合資会社といった種類がありますが、株式会社以外は上場することが出来ません。

上場企業の株式は不特定多数の法人や個人が自由に売買できるようになりますが、売買の意思決定に際しては、正しい情報が公平に入手できることが求められます。また、株式会社が倒産した場合、原則として株式は紙屑となってしまうことから、上場企業が倒産せずに事業を継続出来る会社かどうかは投資家にとって大きな関心事です。

そこで、各証券市場では、企業が上場するための上場基準を定めることで上場企業の質を確認しており、また、上場企業が上場し続けるための上場維持基準を定め、これをクリア出来ない企業には市場からの退出(上場廃止)を促すことで、上場企業の質の維持を図っています。

上場基準及び上場維持基準は市場によって異なります。
例えば、東京証券取引所(一部・二部)の上場審査基準についてはこちらをご覧ください。

3. 日本にはどれくらいの上場企業があるの?

詳しい内容は「都道府県別の株式会社数と上場企業数」に纏めていますが、2016年2月時点で約3,600社の上場企業が存在します。全国にある株式会社は約190万社存在しますので、上場企業はわずか0.2%程度に過ぎません。

但し、現代の企業は各社が単独で事業を行っているわけではなく、上場企業を頂点に多数の子会社を有し、企業グループとして事業展開を行っているケースの方が寧ろ一般的です。

商社など大きな所になると連結子会社が1,000社近い会社もありますので、企業グループという括りで見ると全国の株式会社の数パーセントは上場企業の関係会社になるのではないかと推測します。この点は別の機会に時間があれば調べてみたいと思います。


4.  上場することのメリットは?

企業の利害関係者(ステークホルダー)には株主以外にも経営者、従業員、取引先など様々な立場の人や会社が存在します。
上場のメリットを考えるには、それぞれの立場について考えることが必要です。

①株主

株式会社の株主は株式の譲渡により交代することが制度上予定されており、上場企業の場合は市場取引を通じた売買により株式を購入することで株主となり、反対に株式を売却することで株主をやめることが出来ます。

この事は常識かも知れませんが、逆の見方をすれば、上場していない会社の株を創業者以外の第三者が入手することは困難であり、株主からしても株式を手放して現金化することも困難です。

従って、創業者などの既存株主からすると上場は株式を現金化する機会を得ることを意味し、上場前に投資をしていた金融機関や機関投資家からすると投資の出口(Exit)と言われることもあります。

他方で、これから株主になろうとしている投資家からすると、新しい投資の選択肢が増えることを意味します。

②経営者

経営者については、企業のトップとしての立場と個人としての立場は全く異なりますので、それぞれの立場でメリットを考えることが必要です。

まず、企業のトップとしての立場では、上場による株式の売出しで得られる資金は返済する必要がない新たな資金の獲得ですので、上場により事業資金が潤沢になることで企業の経営が安定し、積極的な事業投資を進めることが可能となります。
また、上場企業であることは信用を前提とする企業間取引では大きなアドバンテージであり、金融機関からの資金調達コストを低減出来たり、新たな取引先の開拓、より有利な条件での契約など、様々なメリットが期待出来ます。

もう一方の個人の立場でのメリットは創業者株主に近いものとなり、経営者が現物株を保有している場合は現金化して回収する手段を得ることになります。
あるいは、全てのケースではありませんが、経営者に上場前にストックオプションが付与されている場合があります。この場合は上場後に権利行使して株式を安価に取得した後に、時価で売却することで大きな利益を上げることが期待出来ます。

少し余談となりますが、ストックオプションは権利付与の際に現金支出の必要がないため、腕に自信のある経営者や幹部を安価で企業に留置き、モチベーションを高めるための手段として活用されることがあります。

③従業員

勤務している企業が上場する場合、中には上場記念で寸志を振る舞う企業もあるかも知れませんが、株式やストックオプションを持たない従業員の場合は、これまで見てきた立場ほどの直接的な金銭メリットはあまり期待出来ません。

それでも、金融機関から住宅ローン融資を受ける場合や転職市場にエントリーする際など、勤務先が上場企業であることで信用補完が働くことはあるでしょう。

④取引先

企業と取引をしている取引先にとっても、取引相手が上場した場合のメリットが考えられます。

例えば、上場企業との強いパイプがあることがアピール出来れば、マーケティングに利用することができる場合がありますし、あるいは事業計画に説得力が増し、金融機関からの資金調達コストを下げることなどが期待出来ます。

5. 上場することのデメリットは?

これまで上場のメリットを確認してきましたが、上場にはデメリットがないわけではありません。

ここでは主に3つのデメリットを取り上げたいと思います。

①コスト

上場企業には非上場企業にはない様々な開示義務が課されるため、これに応えるために会社内の体制を整え、外部監査人の会計監査を受けなければなりません。

開示義務には金融商品取引法が求める有価証券報告書や会社法が求める内部統制の構築・維持など、法が要求するものと、決算短信の公表を含む適時開示など証券取引所が要求するものがあります。

その他、上場企業は株式の名義書換えを外部の株主名簿管理人に委託することが義務づけられているなど、企業が上場し、それを維持する上では様々なコストが付随することは無視出来ません。

②信用リスク

上場による信用補完と間逆の話ですが、上場して名前が売れている企業が不祥事を起こした場合、直接的な損害以上に長期に渡り企業の業績にとって大きなダメージとなるのが信用毀損による取引機会の逸失です。

後ろ向きな話ですが、非上場であれば情報を開示するかどうか、経営者の判断である程度柔軟に情報統制をかけることも可能ですが、上場企業の場合は先述した様々な開示義務に応えなければならず、また社会の期待も大きいために、相対的に沈静化させ難い環境があります。

③買収リスク

企業の業績が振るわなかった場合や不祥事等で企業価値を毀損する事態が発生した場合、株価下落を通じて買収の脅威に晒されることになります。

株式は株式会社の所有権を細分化したものであり、株主になるということは株式会社の所有者(会社法上の社員)となることを意味します。
株主が議決権の行使を通じてその意思を表示する機会である株主総会は株主会社の最高意思決定機関と位置付けられ、取締役の選任や企業結合などの重要な意思決定は株主総会の決議が必要とされています。

買収とは株主総会の議決権の過半数を特定の株主または株主グループに保有されること、あるいはその結果として企業結合される側になることを指し、その株主等に会社を支配されることを意味します。

また、経営者も通常は(代表)取締役であることから、株主の交代により自らを信任しないものが支配株主となった場合、自らの解任リスクに繋がります。


6. おわりに

ここまで、上場企業の性格と上場することのメリット・デメリットを見てきました。

上場とは、不特定多数の株主の存在とその交代を前提とする株式会社本来の姿になることを意味すると言えるかも知れません。
ただ、非上場企業が上場するという行為を考えたときには、そこには様々な利害や思惑が交錯する構造があります。

実際、上場前に勢いのあった企業が、上場を境に踊り場に入るケースも見受けられますじ、上場後に株価が伸び悩む会社も散見されます。
新規上場企業が上場前以上の勢いを保ち続け、企業を成長させていけるかどうかは、本業の状況だけでなく、上場に伴う株主構造の変化もよく観察し、慎重に判断する必要があると考えます。